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記者の視点
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急ぎたい粒子線治療の費用対効果分析
装置開発含めたがん治療先端国に
2008.7.16
がん粒子線治療施設の開設計画が一気に進み始めている。現在、国内には陽子線、炭素イオン線装置を含めて6カ所あるが、今年10月以降の新設計画が、公表されているだけで5カ所に上っている。
現在の6カ所の年間受診者数は、約3000人と推定されている。また、厚生労働省や文部科学省などの政府機関の研究組織が2004年に出した報告書では、年50万件を超えるがん疾患のうち、粒子線がん治療の適応は6.5%の3万3000件程度と推計している。つまり、現在の10倍以上が粒子線治療を受けられる可能性があるわけだが、当然ながら現状では対応施設数が足りない。
年間1000件の治療が可能な施設が出来たとしても、国内では33施設が必要となることになる。この報告書はさらに、潜在的な「適応対象疾患母数」が約7万件とも推計しており、そうなるとその倍の施設が必要になるということになる。
◎ やはり重い300万円の負担
粒子線がん治療は、手術の難しい頭頸部がん、骨・軟部疾患、肝がん、非小細胞型肺がん、前立腺がんなどに有効とされる。特に、前立腺がんでは既存各施設ともに高い効果が報告されている。
そのほかのがん種についても、今後のエビデンス確立が期待されており、他療法とメリットを比較しづらいとされる乳がんでも、新設施設での臨床試験計画が進められている。また、粒子線治療はその効果だけでなく、入院が不要、侵襲性が低いなどの利点が「高齢者にやさしいがん治療」として認識され始めている。さらに、進行がんでもQOLを維持したままでサバイバル期間延長があるとされ、緩和ケア直前での活用も期待が集まっている。
しかし、粒子線治療は先進医療だが治療自体の保険適用はされていない。その効果や侵襲性の低さにメリットが生まれても、現状は1回の治療で300万円程度の治療費がかかる。
これだけの費用を出せる患者がどれだけいるかを推定すれば、前述した患者数とは逆のデータが生まれてくることは分かり切ったことである。実際、すでに稼働している施設では年間600人の患者がいても、診療順番待ちで相当期間の待機を余儀なくされるというような事態は起こっていない。
◎ 施設開設計画と同時進行での研究を
05年に東北大の濃沼信夫教授が発表したデータによると、がん患者の自己負担額は間接費用を含めると、年間で140万円を超えることが明らかになっている。保険医療費には高額療養費制度があり、税制上の医療費還付もあるので、直接負担はそれほど大きくはないとみられるが、それでもがんに罹ると患者には決して小さな数字ではない負担が発生する。
この調査では、がん診療を受けることによって患者に戻る償還額・給付額は126万円で、うち92万円は民間保険給付であることも分かっている。がん診療に関しては、すでに国民のかなりの数が民間保険でがん診療への防衛を図っていることになる。
粒子線治療に関する市民講座などが開かれると、市民・患者側からは必ず、保険適用はいつかという質問が出る。ところが粒子線治療に限っては、治療提供側に保険適用への関心が低い。
施設数自体が少ない上に、莫大(ばくだい)な施設整備費用、少ない専門技術者の現実が、保険適用をためらわせる背景になっている。しかし、がん治療の新たなカテゴリーが存在するのに、それを享受できる人が限られるという問題は、将来の施設展開計画と同時に検討し、解決しておくべき課題である。
すでに一部では、粒子線がん治療特約をつけた民間保険商品の開発も進んでいるようだが、それも基本的には保険料を負担できる階層が対象となる。侵襲性の低さ、QOLを重視したサバイバルデータのエビデンスを積み上げ、費用対効果を示していく必要が大きいように思える。
また全体のコスト低減には、国産で低価格の装備の開発を推進する課題も粒子線治療装置にはつきつけられている。粒子線治療装置開発は国内企業がリードしており、ほかの高度医療機器が海外企業製品で占められる現実から脱却するチャンスもこの装置は持っている。
がん患者に寄り添う視点から、グローバルなビジネスチャンスが生まれるという視点を戦略として持てないだろうか。医療費が非生産的な消費にしかすぎないという既成概念を破壊するためにも。(大西 一幸)
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