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記者の視点
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再生医療の普及に適切な利益が必要
新技術育てる努力を
2009.7.1
中医協は昨年12月で、日本初の再生医療製品「ジェイス」の保険収載を了承した。開発から承認までに約10年の歳月を要しており、保険収載にはさらに14カ月かかった。承認前から取材してきた記者として、ようやく臨床応用されると思うと、胸が高鳴った。
しかし、保険収載から数日後に厚生労働省が通知した保険算定要件は、臨床医や研究者らを落胆させるような内容だった。再生医療関連の学会や議連を取材していると、複数の研究者が「あの保険算定要件はひどい。みんな怒っているよ」と口にする。
ジェイスを保険算定するには「広範囲熱傷特定集中治療室管理料」の施設基準の届け出が必要だ。また、使用の際は「20枚」までしか保険算定されない。
同管理料の届け出を行っている施設は限られるほか、20枚という使用制限が臨床応用のネックになっている。20枚では10%ほどの熱傷しかカバーできない上に、20枚以上使用した場合はジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)社が負担している状態だ。
この要件について、厚労省は「関係学会等の意見も聞いた上で決定した」と説明している。しかし、臨床医や研究者の間では「1枚30万円と高額なので使いすぎ防止のためでは」「安全性担保のために、施設を意図的に制限したのではないか」といった意見が存在する。「施設だけでなく、枚数まで制限されては、せっかくの再生医療製品が力を発揮できない」と危惧する声も上がっている。
●「スキンバンク」の問題も
日本初の再生医療を取り巻く環境はさらに深刻だ。ジェイスを作成するまでに2〜3週間かかる。そのため、受傷直後には感染防止や真皮再生のために他人の皮膚を移植する「同種皮膚移植」が必要になる。
しかし、同種皮膚が集まりにくくなっているのが現状だ。家族や知人が皮膚を提供する場合、1週間の入院が必要になる。採取後は傷跡が残ることもあり、「最近では知人からの提供も減った」(聖マリアンナ医科大・熊谷憲夫氏)。
そのため、スキンバンクが保存している凍結保存皮膚が重要になるが、この凍結保存皮膚が使えなくなる可能性がある。凍結保存皮膚を提供している日本で唯一の施設「日本スキンバンクネットワーク」が運営困難に陥っているためだ。
同法人は、メインスポンサー企業の倒産をきっかけに資金調達が困難になった。もし運営できなくなれば、ジェイスの使用が制限される可能性がある。それどころか、従来の熱傷治療すら難しくなる。
●「救急医療の危機」に
こうした状況について、日本医科大付属病院高度救命救急センターの川井真氏は「救急医療の危機」と指摘する。「熱傷治療はつらい時期にある。熱傷治療医は疲弊し、少なくなっている」と語る。「いい武器(治療方法)を持ってはいるけれど、それを使う兵隊(医師)もいないし環境もない」と救急医療の現状を懸念する。
再生医療のような新たな技術を世に広めるには、それを担おうとする企業が、社会貢献と利益追求を両立できるような枠組みをつくることが必要だ。
規制改革会議の阿曽沼元博氏(国際医療福祉大)は、「日本には、公で非営利なものが正しく、民間で営利なものはいかがわしいという観念が存在する」と指摘。「市場ニーズと顧客満足度を追求した結果、利益が生まれる。正当な利益は追求するべき」と強調する。
J-TEC社では、承認までに約70億円かかっており、承認から保険収載までに約10億円の赤字が発生した。その上、保険収載後は、21枚以上の症例で無償提供している状態。いつまでもこの状態で経営するのは困難だ。
今回の保険算定要件が、後続する再生医療関連企業のモチベーションを大きく下げたことも事実で、保険算定要件の改定を求める声が企業だけでなく、医療従事者、研究者間で少なくない。
再生医療製品は、開発から承認までに時間がかかる。そのため承認システムの問題ばかりに目がむきがちだ。
しかし、保険収載された後こそ、正念場だと感じる。臨床現場で使われることを目的にしているならば、しっかりと「適切な」保険算定要件と適応対象を検討する必要がある。従来の治療では救えないとされる受傷面積90%の重症熱傷患者を救えた新しい技術の芽を、根絶やしにしてはいけない。(満武 里奈)
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